コミュニケーションの場で、とりわけビジネスで英語を用いる際に「英文法」の価値はどういった点にあるのだろうか。私自身、仕事上で英語を使う際に「文法」を意識しているかと言われれば、正直そうでもない。実際のところ、文法について考える間もなく会議の話題は次々と進むし、正確な表現や言い回しに注意を向ける余裕もほとんどなく、英語を聞いたり話したりしなければならない状況に置かれている。そうは言っても、英文法を活用できる機会はあると思うし、英文法を学んでおく価値はあると考えている。
英語を外国語として学んだ人が、ビジネスの場で英語を用いる際には、定型句やセットフレーズ、一部の単語を入れ替えて使える構文をできるだけストックしておくことがまずは必要となるだろう。英語を話すのが流暢な人ほど、すぐにでも使える英語表現のストックをたくさん持っているように思われる。"Hello.""Hi.""Thank you""Nice to meet you"に始まり、"Let's get started~""as you said earlier~""We are supposed to~"といった表現が瞬時に言える(聞ける・読める)ことで、コミュニケーションが円滑になる。
では、伝えたいことを表すのに、自身のストックの中にふさわしい定型句やセットフレーズがなかったり、単語を入れ替えて使えるような構文がない場合にはどうしたらよいか。こういったときには、日本語を補助的に使って、伝えたい内容やメッセージを明確にすることが必要だ。その上で和文英訳的に表現する。大切なのは伝えたい内容の中身・概念であって、表現や言い回しはとりあえず脇に置いておくことにする。頭の中で行われるこういった作業には、練習や慣れが必要であると思う。
英文法を学んで良かったと思うのは、学んだ文法項目を手がかりとしながら、伝えたい内容を英語にできないかどうかを考えてみることができる点である。自分の頭の中にある文法項目の目次(リスト)から、いわば逆引きの手順で伝えたい表現を探ってみるわけである。これはネイティブスピーカーにはない発想かもしれない。例えば、何か伝えたいことがあったときに、ネイティブスピーカーが「よし、これを動名詞を用いて言ってみようか」などと意識することはほとんどないだろう。おそらく彼らは無意識のうちに動名詞を当たり前のように使っている。私の場合で言うと、「ここではit is…that~が使えるかも」とか「not A but Bの相関表現を使えばうまくまとまりそうだ」といった具合に、英文法の観点から言い回しや表現を検索してみることが多い。つまり「英文法」をアウトプットのためのヒントとして活用している。
「どういった文法事項がビジネスにおいて役に立つか」という独断と偏見による私のランキングによると、以下のものが上位に挙げられる。
「助動詞」 ←丁寧さや・語調に関わる
「数量・頻度・程度・比較を表す表現」 ←ビジネスでは当然、数値に間違いがあってはならないので
「論理関係を表す副詞や接続詞」 ←わかりやすい説得力のある英語を書いたり話したりするため
学習の初期段階においては、語順を理解するために「文型」を意識したり、よく使われる「動詞の語法」を重視していたが、そこそこに通じる文が作れて、コミュニケーションがなんとか取れるようになってくるとこれらはあまり意識しなくなった。次へのステップとして、豊富な語彙力や表現力を身につけることが必要となるが、それらが身につくのを待ってはいられない。また明日にも英語でコミュニケーションを取らなければならないのだ。語彙や表現の勉強に比べると、文法の勉強は比較的短期間で整理しておこなうことができるので、これを活用しない手はない。「英文法」が語彙力の不足分を補ってくれることもあれば、内容をよりわかりやすい簡潔な表現へと整えてくれることもある。例えば、「物価が3倍上がった」と伝える場合。差異を表すbyを用いると、Prices have increased by three hundred percent.と簡単に言うことができる。
文法上の理屈やニュアンスを理解するためには、『発信型英語スーパーレベル英文法』(植田一三著)が参考になる。
発信型英語スーパーレベル英文法 [ 植田一三 ] - 楽天ブックス
ビジネスでコミュニケーションをする際には、同僚との関係、顧客との関係、取引先との関係といった様々な関係性のなかにおいて適切な表現が求められる。それと同時に、事実や用件をわかりやすく伝えることも大切である。そういったビジネスの場で想定される例文集・表現集として、TOEICの問題は秀逸であると個人的に思っている。TOEICのなかには明日からでもすぐに使えるものがたくさんある。
公式TOEIC Listening & Reading問題集(1) [ Educational Testing ] - 楽天ブックス
公式TOEIC Listening & Reading 問題集2 - 楽天ブックス
英文法は機器の取扱説明書のようなものだといえるかもしれない。学習初期においては、ガイダンスやイントロダクションの役割を果たし、その機器が自由に使えるようになってからは、必要な項目の検索やより応用的な使い方を求めて活用することができる。第2言語として英語を学び、自律的な学習者になるためには、何らかの機会に英文法を学んでおくことが必要である。「英文法」が学習の面でも実用的な面でも、大きな支えとなってくれるはずである。私個人の目標は、単語、定型句、セットフレーズ、文法を区別なく無意識のうちに使えるようになることであるが、そのためにはまだまだ時間がかかりそうである。
There is no top. There are always further heights to reach.
―Jascha Heifetz
(頂点などない。常に、到達すべきさらなる高みがあるのだ。)
人気ブログランキング
【関連する記事】